救急救命士が行う病院連絡では疑い疾患名を言うべきなのか?

管理人も行きたい

先日、救急救命士が行う病院連絡の際、基本的には「疑い疾患名」を言わない方がいいですよ、とツイートしました。

もちろん「これが正解」というスタイルはないので、色々なご意見がありました。

今回は病院連絡時に「疑い疾患名」を言うべきか否かを考えてみたいと思います。

救急救命士の任務はBasic Triageであって診断ではない

救急救命士が高度な医学的知識の習得、問診技法やフィジカルアセスメントを学ぶ理由はこれです。

的確な病態把握と適切な病院選定

決して診断が目的ではないはずです。

全ての救急患者をER型救命センターに搬送できる諸外国と異なり、日本では救急救命士による病院選定(1次から3次)が必要ですよね。

これまでの記事に書いたように、通報内容から緊急度が高い疾患を想起し、そして想起疾患から優先して検証(観察)することが救急救命士に課せられた任務です。

それら一連の流れをBasic Triageと定義します。

つまり現場レベルでのトリアージ(病院選定の)を行い、必要な処置を行いつつ適切な医療機関に搬送することが主たる任務です。

もちろん、病院選定の段階では、ある程度の疾患を頭の中に予測しているはずですが、それを伝える必要はないと考えています。

あくまでも基本は「主訴(状態)」を冒頭に伝えるべきであり、それが傷病者のため(医療安全面からも)には重要です。

同じ主訴や状態に見えても鑑別すべき疾患は多岐に渡る

例えば、高齢の男性が意識障害と左片麻痺を呈している現場に出動したとします。

おそらく病院選定時に「疑い疾患名」を伝える派の方は、

「脳卒中疑いの方の搬送依頼です」と伝えるでしょう。

さて、今後起こり得る危険性と相手に与えるバイアスは何が考えられますか?

脳卒中と同じような症状を呈する他の疾患に対するフィジカルアセスメントを行なった上での「脳卒中疑い」でしょうか?

もちろん搬送先の医師による診察では適切な診断がなされると思いますが、チーム医療のためには安全が最も重視されるはず。

どんな人間にも認知エラーは必ず起こり得ますから、それを回避するためにも「疾患名」を冒頭に伝えるのはあまり良くないと考えています。

認知エラーについては以下の書籍に分かりやすく記載されています。

トリアージバイアス

トリアージナースが症状ではなく診断名を入力することで結果としてそのレッテルが過度に医療チームに影響することです。

ラベリング

ひとたび患者にレッテルが貼られると、それが診療の終わりまで影響を残すこと。

そのレッテルが他の鑑別疾患を考慮することを妨げるようになります。

アンカーリング

一度、この疾患だと決めつけたらそれ以上のことを考えずに決めつけること。

引用(参考):内科救急見逃しカンファレンス

筆者:長谷川耕平、岩田充永

救急救命士の皆さんにも経験があると思います。

例えば、通報段階では「Aという情報だったのに行ってみたらBだった」のような状況です。

飲酒による急性アルコール中毒と思って行ってみると「頭部外傷による意識障害だった」とか、「飲酒による酩酊と思って行ってみたら心筋梗塞によるショックだった」は逸話の話ですね。

ちなみに、脳卒中と思っていたら実は大動脈解離だった・・・

これも有名な話かもしれません。

指令センターのスタッフにも共通して同じことが言える

認知エラーを防ぐためには指令センタースタッフによる出動命令から始まっています。

例えば、「若い女性、過呼吸」のように「疾患名付き」で出動指令を伝えてしまうと、現場に行くまでの車内では「過呼吸か・・」のような雰囲気がどうしても作られてしまいます。

現場に向かうまでに必要な思考回路は、

  • 何かしらの疼痛による呼吸数増加
  • 何かしらの疾患によって代償的に呼吸数増加

ですから、指令センタースタッフとしても

「若い女性 呼吸困難」のような出動指令が望ましいです。

このような内容を見た(聞いた)救急救命士は、緊急度が高い疾患から想起するはずですよね。

大事なのは全てのフェーズにおいて認知エラーを回避すること。

やはり、そのためには「疑い疾患名」を伝える必要性は低いと考えています。

もちろん、状態は別です。

ショックやCPAなど、一刻を争う状況や状態は冒頭に伝えるべきです。

Basic TriageとAdvanced Triage

救急救命士が行う搬送先トリアージをBasic Triageと定義しましたが、医師によるトリアージ(診察や治療の優先順位、各科へのコンサル)はAdvanced Triageと言われています。

この一連の作業が流動的に機能することが救急活動に求められるものです。

そして、常に認知エラーを回避するためには「不要な決めつけ」は極力無くすべきだと考えています。

あくまでも病院連絡の基本は「主訴や状態」から始めましょう。

実は疑い疾患名を冒頭に伝えた方が良い場合もある

基本はあくまでも「主訴や状態」からですが、例外的に「疑い疾患名」を伝えた方が、結果的に現場滞在時間を短縮できる場合もあります。

これは、ある特定のシーンに限られますが、これについては限定記事で書こうと思います。

疑い疾患名を伝える派は地域のコンセンサスが必要かもしれない

これまで書いた内容はあくまでも一般的な考え方を認知エラー回避の観点からお伝えしました。

地域によっては「疑い疾患名」を冒頭に伝えるように指示されている地域もあるかもしれません。

そのような場合は地域の活動スタイルを優先してください。

それ以外(特に指示や決まりがない場合)では、やはり日頃から関係機関のコンセンサスを得ておく方が無用なトラブルを事前に回避できると思います。

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