救急隊員が行う救急講習の在り方と方法を考える

管理人も行きたい

日本では消防署が開催する救急講習や普通救命講習が普及しています。

これは素晴らしいことで、一般市民と消防が一体となってバイスタンダーCPRの普及と救命率向上に貢献していると思います。

ただし、日常的に講習を行う立場としては、最低限知っておくべきこともあります。

今回は消防職員が行う救急講習の現状から見る問題点と解決策について考えてみたいと思います。

自己紹介について

自己紹介について、個人的に絶対に言うべきではないワードがこれ。

「今日が初めての講習なのでお手柔らかにお願いします」

「拙い講習かもしれませんがご了承ください」

これだけで受講者のモチベーションが低下します。

一般市民に指導する立場ですから、「初めて」とか「拙い」なんてワードは禁句にしておきましょう。

「拙い」と自分で思うのであればしっかりと勉強して練習しておきましょう。

一般市民と業務救護プロバイダーを明確に区別する

今回最も言いたいのがこれです。

どこの地域でも同じだと思いますが、一般的に救急講習の受付は電話で依頼されることが多いと思います。

例えば地域コミュニティからの依頼では、30分とか40分とかの短い講習時間で依頼されることもありますが、それはOKでしょう。

なぜなら、それは一般市民による善意の応急手当が目的だから。

受講される大半の方が実際に応急手当を実施するとき、それは家族だったり通りすがりに偶然発見した傷病者に対して。

つまり応急救護の義務がない方。

やらなくても法的責任はありませんし、仮に実施した手当によって傷病者に不利益(怪我など)があったとしても、そこに悪意がなければ法的に責任を追及されることはないと考えられています。

■関連する法律
・米国:良きサマリア人法
・日本:民法第698条、刑法第37条

応急救護義務がない方に対して、いざという時は

「勇気を持って行ってください!」という声かけはOKでしょう。

問題は応急救護義務がある職種への救急講習の場合です。

例えば、学校教員や保育士(幼稚園教諭)、介護施設職員などが挙げられます。

上記のような職種の方への救急講習と、善意で行う一般市民への講習とでは、その内容や法的責任について、明確に区別する必要があることを指導者もしっかりと理解しておく必要があります。

なぜなら業務として応急手当を行うことを予め想定できるからです。

そして法的には注意義務と常に隣り合わせ。

過去の判例では、注意義務違反として認定されているケースも多くあります。

つまり、「応急手当は出来て当然」という考えです。

個人的に危惧しているのは短時間の救急講習が普及していること。

例えば業務中の僅かな時間(1時間に満たない)を使って救急講習を依頼してくるケースが散見されますが、業務として行う応急手当ですから短い時間で習得できるとは到底思えません。

本来、消防が行う救急講習は一般市民への普及に主眼を置いています。

しかし無料ということから、それがいつの間にか救護義務がある方々へも浸透してしまったと言っても過言ではないでしょう。

指導する側に求められるのは、対象者によってスタイルを変えることです。

誰に対しても同じ指導内容(ルーティン)は御法度です。

ただ、将来的にはどこかで線引きをする必要があると考えています。

欧米諸国では先ほど提示した職種の方に対して「資格取得を義務付け」している国々も多く存在しています。

それは行政が発行する「受講証明書」ではなくアメリカ心臓協会が発行するハートセイバーCPR AEDのような資格です。

有効期限内のカード所持を就労条件としている職種もたくさんあります。

日本ではそのような就労条件は浸透していませんので、救護義務がある職種への救急講習は消防機関が担っているのが現状ですが、将来的には再考する必要があると考えています。

救急講習の各論

ブースに分かれての指導スタイルは良し悪し

特に実技についてはブースに分かれて行うケースが多いと思います。

少人数制で実技ができるメリットはありますが、デメリットもあります。

まず、指導者側の指導内容の統一がされていないとブースによっては差が生じます。

これは指導者の技量にも左右されますが、ある程度のコンセンサスを事前に用意しておくべきです。

その点、BLSプロバイダーコースで取り入れられている手法は効果的ですね。

ビデオを見ながら全体で行う実技は最適です。

ARCSを使ってモチベーションの定着を

子ども達が学校で受ける授業と違って、成人教育には必要な要素がたくさんあります。

成人教育については様々なところで提唱されていますが、個人的に最も効果的な考え方はケラーが提唱したARCSモデルです。

■ARCSモデル(英語表記は割愛)
・A:注意
・B:関連性
・C:自身
・D:満足

この中で特に重要なのがA(Attention)の注意です。

日本語的に言えば「受講の動機付け」ですね。

「自分には関係ない」

「自分の周りで心肺停止は発生しない」

受講される方の心理にはこのような想いがある方もいるはず。

大人は強制的に言われて学ぶのではなく自ら学ぶ存在です。

ですから、救急講習を効果的に伝えるためには「自分にも必要な内容だ!」と学習意欲に火を付けてもらう必要があるのです。

実はここが成されていないケースが大半を占める印象です。

長々と講師が一方的に話をしたり、

長々と地域情勢の話をしたり、

長々とスライドを読み上げたり、、

どんな講習にもプレゼンにも共通して言えることですが、一番最初が肝心です。

・なぜ救急講習が必要なのか

・受講することでどんな効果がるのか

ARCSモデルを駆使して最初の導入を行うと受講者の力の入れ方が違ってきます。

エビデンスに欠けるお作法を強要しない

日本で一般市民の方に対して救急講習を指導する際は、日本版ガイドラインをベースにした講習を行っていると思います。

講習の場面でよくある光景が、

「反応確認の声かけはもしもしです」

「助けを呼ぶときはすみませーんと叫びます」

そして、「そのセリフ以外」のことを受講生が行うと

「違います!もしもしと声をかけてください!」

こんな指導はしてませんか?

驚く方もいると思いますが、実際にこのようなシーンは少なくありません。

反応の確認で声かけするセリフなんて何でもいいです。

「おい!大丈夫か?聞こえるか?」

「ねー!ちょっと!大丈夫?!」

これでOK。

つまりエビデンスがない部分については何だっていいわけです。

これをお作法として指導するのはナンセンス。

お作法的な指導スタイルでは受講者に「理解」を提供するのは困難です。

一般市民に対するAEDの指導法

これもよくありがちな光景かもしれませんが、長々とAEDの説明をしている指導者も多いですよね。

AEDについて事前に説明することは2つ。

・電源を入れる(蓋を開ける)

・音声指示を聞いて従う

これだけです。

まずはこの2つを強調して伝えること。

もちろんAEDの取り扱いでは注意点も存在しますが、それは後から伝えればOK。

・こんな時はこうで・・

・あんな時はそうして・・

事前にAEDの細かい内容を先に伝える行為、個人的には推奨しません。

救護義務がある職種の方へは別ですが、一般市民であればなおさら細かい説明には重点を置いていません。

バイスタンダー普及率を高めるという観点からは「AEDは難しい」と思われない指導スタイルが求められるはずです。

個人的には先ほど書いた2つの使用方法を伝えた後に、実際にシミュレーションを通じていきなりAEDを使用してもらっています。

そこでの目的はデブリーフィング(気付き)です。

シミュレーションといえども多くの受講生の声でAEDの音声は聞こえにくくなります。

実はここが狙い。

AEDを使用するには流れてくる音声指示に従うことが大切。

でも、多くの人の声で聞こえませんでした。

じゃあ、どうすればいいですか?

これがデブリーフィングのポイントです。

大抵の場合は、

「1人がAED担当者として音声を常に聞いておく」

という流れになっていきます。

先ほども書いたように大人は自ら発見して学ぶ存在です。

指導者が細かなことまで伝えても記憶には残りにくいですから、自分たちで発見して改善策を話し合うのも学習効果を高めるためには重要です。

業務プロトコルと市民が行う手当を混同しない

救急救命士や医療従事者が行う蘇生のプロトコルでは、2分間というキーワードがありますよね。(地域によっては5サイクル)

つまりショックの後は2分間CPRを続けるという意味です。

これを一般市民の方に伝えている指導者が非常に多いんです。

日本版ガイドライン(市民アルゴリズム)や救急蘇生の指針(市民用)では、2分間(5サイクル)というワードは一切出てきません。

唯一、記載があるのは「1分から2分おきに役割を交代しましょう」です。

市民には2分毎のリズムチェックやパルスチェックは必要ありませんから、2分というワードを伝えてしまうと混乱を生じる可能性はゼロではありません。

大事なのは、

・救急隊が引き継ぐまで

・目的のある動きが認められるまで

・AEDが胸骨圧迫の中断を指示するまで

この3つだけ伝えるようにしておくべきです。

業務のプロトコルと市民向けアルゴリズムの違いを理解しておかないと混同してしまいます。

人工呼吸の重要性とデバイスを理解して伝える

子どもの心停止に多い原因は呼吸原性ですよね。

例えば溺水や窒息など。

救急講習の対象が保育士や学校職員の場合、人工呼吸まで教えていると思いますが、指導する立場としては人工呼吸に使うデバイスまで伝えておきたいです。

救急講習では、フェイスシールドや直接の口対口人工呼吸を指導するケースが多いと思いますが、実際の場面で果たしてその方法で効果的な人工呼吸ができるかは別問題。

例えば小学校で教職員が児童に口対口人工呼吸を行う場合、口の周りに嘔吐物や血液が付着しても実施できますか?という問題。

一般市民に対しては人工呼吸が出来る技術や意思がなければ胸骨圧迫のみを続けるようアルゴリズムに記載があります。

果たしてこの記載が救護義務がある職種(保育士や学校職員)にも該当するのかどうかです。

実は既に「人工呼吸を行わなかったことに対する裁判」もあります。

学校職員が突然倒れた生徒に対して胸骨圧迫のみを行った事例ですが、人工呼吸を行わなかったとして裁判になっています。

詳しい判決までは見つけることができませんでしたが、業務として一定の頻度で応急手当を行う立場にある職種の場合、「実施できなかった」ではなく「実施できるための備えが不十分だった」という論点にも進展する事もあり得ます。

このような背景から、人工呼吸の重要性を説明すると同時に、どのようなデバイスを使って人工呼吸を実施するかまで伝えておく必要がありますね。

指導する立場としてのアップデートはBLS

救急救命士や救急隊員の立場を考えると、

BLSは当たり前で出来て当然

こんな想いは誰にでもあるでしょう。

むしろ出来て当たり前でないとダメな立場ですからね。

ただ、指導を学ぶという観点からはBLSプロバイダーコースの受講を強く勧めたいです。

AHA(アメリカ心臓協会)はID(インストラクショナル・デザイン)を駆使した教材設計と指導方法を取り入れています。

冒頭に紹介したARCSモデルも然り。

蘇生のプロである救急隊員でもBLSを受講すると、

・楽しかった

・知らないことが多かった

・指導に使える

こんな話を聞くことがよくあります。

BLSプロバイダーコースは多くの拠点で開催されていますが、指導技法(教育工学)を一緒に学びたい方は日本医療教授システム学会をオススメします。

特に病院前バージョンのBLSはオススメです。

新しい発見があるはずです。

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